これが「サスケ」のようなゲームだったら、30往復のすべてで、クリア失敗になったことだろう

きのうの出張買い取りは大田区。少し遠いが、何年か前にこのあたりで宣伝活動をしたので、何度か買い取りに来たことがある。今回のお宅もそのころに一度呼んでいただいたのだが、残りがあったらしい。

行ってみて思い出した。前回は家の中の本を片付けただけで車が満載になってしまった。外の物置もちらりと見せていただいたのだが、「また今度にしましょう」という事になったのだった。

古本の片付けは数年に一度ということが多い。たくさんの買い取りがあるので、お客様のお名前や顔は忘れてしまっているのだが、本を見れば思い出す。人間の脳には人の顔を認識するための部位があるそうだ。そこが成城に機能しないと「相貌失認」という障害になって、人の顔の見分けが付かなくなる。私も人の顔を覚えるのが苦手だ。だが、本の姿は良く記憶している。普通の人が顔を識別する脳の領域が本を見ることにあてられているのかもしれない。

今回忘れていたお宅は、家の建物の裏側に物置が6台ほど建ててあり、駐車場の屋根のような覆いはあるものの、風に曝されているので物置の中の本も隙間から吹き込んだ砂にまみれている。内容も新古書店の均一台で買ってきたものがほとんどだ。

その物置が設置してある裏庭に到達するためには、門から植木をよけながら飛び石を歩いて、さらに家の横の犬走を7メートルほど進まなければならない。犬走の途中には勝手口の高さに合わせるための2段ほどの階段があり、これを上り下りする。建物の反対側は目の高さの塀で、猫よけのトゲトゲが設置してある。裏庭は物干し場所になっているから、棹をささえる台の腕木をくぐる必要がある。

学術系文庫と思想書を中心に、風雨にさらされた度合いの少ない、60本1000冊を引き取ることにした。若旦那が本を縛り、私がそれを運ぶ。両手に一束ずつ持つので、30往復だ。

両手に10キロずつの本を持ってこの10メートルのコースを通るのは、なかなかの困難さだ。もし、これが「サスケ」のようなゲームで、樋や木の枝に触れたり飛び石から足を落としたりしたらドボンだったら、30回のすべてで、クリア失敗になったことだろう。

店に帰ってもまだ疲れでぼんやりしていたので、仕分けは若旦那に任せる。内容はすてきなものが多いが状態が今ひとつなので、ほとんどが100円、50円の均一になるはずだ。