新書を読むシリーズ 「時間はどこで生まれるのか」 橋元淳一郎 集英社新書

新書を読むシリーズ 「時間はどこで生まれるのか」 橋元淳一郎 集英社新書
前半は相対性理論と量子力学の世界観の説明。要するにニュートン的な絶対時空が、日常では常識になっているけれど、現代物理学ではそうではないですよ、ということ。
相対論では、絶対的なものは時空間ではなく光の速さであること、量子力学的ミクロの世界では時間も空間も実在しない。都築卓司のブルーバックスで中高生時代を過ごしたぼくには目新しいことはあまりない。超弦理論の11次元空間によれば、ぐらいは言ってほしかった。
哲学者の時間論は古典物理学の範囲で考えていて、現代物理学の知見を取り入れていない、と著者は非難するけれど、この本全体はマクタガートという哲学者の理論にそって論じられている。
そして「時間とは何か」という結論なのだが、静的にただ存在している宇宙に、生命(特には人間)がエントロピーの増大に抵抗するというその生命の形式ゆえに、時間を創造する、というようなものである。
「時間の創造は宇宙の創造であり、われわれはそれに参画しているのだ」とのことだから、これは、一種の人間原理といえる。
著者は物理学のことは説明しているが、現代哲学についてはほとんど何も説明せず、恣意的にハイデガーなどの用語を援用している。人間原理についても、一言も説明されていない。これでは「宇宙がこのようであるのは、人間が観察しているからだ」という人間原理そのものが、著者のオリジナルのように受け取られかねない。
むしろ、実数と虚数の関係にある時間と空間の関係を無理に開いて、たとえば重力が距離の2乗に反比例するのではなく、時間を含めた時空距離の3乗に反比例する、そのようなものとして時間を捉えた場合の世界観は構築可能か、など、物理学者ならではのSF的思考を披露してほしかった。