「サンカの真実 三角寛の虚構」 

前回に続いて、新書の紹介である。
「サンカの真実 三角寛の虚構」 筒井功 文春新書
「サンカ社会の研究」など三角寛の著作の虚構性を暴き、三角によるサンカ像を粉砕。とくに、三角の著作に多数収められている写真の演出を明るみにしたことは衝撃が大きい。
僕は「サンカ」について特別な知識を有しないし、三角の著作についてもパラパラと見た程度のことがあるに過ぎない。相場の高い本ということで、古本屋なら、誰でも名前ぐらいは記憶にとどめている、そんなところだ。
三角の描くサンカ像はミステリアスで、おもしろいので、著作を読んだことのないわれわれでも、それとなく伝わっている。長く武家権力に統治され、天皇を権威とする「日本人」とは別の「サンカ」という人たちが日本列島に住んでいて、あたかも国土を同じくする別の国民のように、秘密の権力体系に組織されている、というファンタジーは魅力的だ。
そんなことはないだろう、と思いながらも、平凡な日常のすぐ裏側に未知の大陸が広がっているようなロマンを感じて、つい肯定したくなる。そんな思いの根拠が、三角が示した膨大な写真だ。著作の真実性を疑われながらも、百科事典にまで影響を及ぼしたというパワーは、「文章は、想像をまじえてかなりオーバーに書いているかもしれないが、写真があるのだから、まったくのデタラメではないだろう」という素朴な気持ちからだろう。
しかし、その写真自体がまったくの演出で、撮影場所、日時はデタラメ。シチュエーションは演出。はては、衣装まで用意されたものだったら、これは完全に「虚構」というほかはない。
筒井のこの本は、主に写真に的を絞って、三角のサンカ論を粉砕している。たとえば、写真に撮影された人物を特定し、本人にインタビューしている。元新聞記者ならではの著者の取材力である。特に、細部を検証して、別々に撮影されたとする写真が実は同一場所・日時のものだと、鑑定するくだりは説得力がある。今まで誰も試みなかったのが不思議なぐらいだ。
後半では三角の人物像なども描かれるが、掘り下げはいまひとつ。また、では実際のサンカはどんな人たちなのか、という部分もほんの少ししか書いていない。
三角とサンカについて、何かを知りたいと思ってこの本を手にした人(たとえば僕)は、多少失望するかもしれない。著者には他にサンカに関する著作をがあるようなので、それを読めということなのだろう。