ケスク・セ これは何ですか
今日はフランス人のお客さんがいらっしゃった。うちは本屋だから、外国人のお客様でもたいていは多少なりとも日本語がおできなるか、日本の方と一緒にいらっしゃる。おいてある物が、ほとんど日本語なので読めなければ買えないからだ。
ところが今日のカップルは、まったく日本語がわからなかった。お互い同士はフランス語だが、こちらには英語で話しかけてくる。あいまいにお答えしているうちに、建築関係の写真集を何冊かお選びいただいて、一万円以上になった。お支払いはこれで、というようにカードをお出しになった。数字は共通だし、値切られるのでもなければ誤解も生じようがないので、ここまでは問題なく進んだ。
ところが、カードを機械に通す段になって、「お支払い回数は、いかがいたしますか」と店員が聞いてしまった。デパートの帳場をやらされたとき、必ず訪ねるように(一回でよろしいですか、と押しつけてはいけない)しつこく教育された後遺症である。
こんなのフランス語でなんと聞くのか? わかるわけがない、英語ですら聞けないのだ。カタコトの英語でワンタイム・ペイ、オア、2タイム・ペイとかわめいたのだが、まったく通じない。セリーヌの小説はたしか、モルタ・クレヂットとか言った。だけれど、クレジットじゃ割賦のことにはなりそうにない。
東大生の男店員Yは店の奥に逃げてしまって役に立たない。美大の女店員E、女店員Mと三人で、金魚のように口をぱくぱくさせていると、何だ何だという感じで、野次馬が大勢集まってきた。最近ではお店にこんなにお客さんがいたことない、というほどになった頃、あまりに哀れに思ったのか、店内で棚を見ていた若いアベックのお客さんが流暢なフランス語で、何かお話してくださり、結局2回払いで、ということになった。
ところが、カードを機会に通してサインをしてもらおうと思ったら、伝票に金額が印字されていない。HELPに電話しろ、という指示が出ていた。そのとおり、電話して問い合わせると、外国発行のカードでは分割払いは選べないということだ。じゃあそのことをフランス語で、案内してくれとお願いしたのだが、ヘルプデスクでは日本語の案内しかできないとのこと。
またしてもお願いして、先ほどのお客様にご登場願った。しかし、さすがに話が複雑になってきて、どうにも通じない。どうも、もともと2回払いというのが誤解で、今日カードを使うのが2回目だということだったようだ。とにかく、1回払いなら使えますよ、ということだけでも伝えたいのだが、説明できないようであった。
そのはずで、クレジットカードはとりあえず現金を持ち歩かないためにあるだけで、月賦で買うなどという観念が、フランス人にはもともとないのだ。ピンと来てくれないはずだ。結局、現金でということになり、メルシー・ボクということになった。
それにしても、相手がフランス人でまだよかった。英語が通じなくて踊っていたらもっと恥ずかしかっただろうが、フランス語ではできなくてもしょうがないからね。