寄席:新宿末広亭に行くの巻 後編

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労働基準法というものがあって、被雇用者を週40時間以上働かせてはいけないということが決まっている
。主に工場のようなところで働いている人が対象の法律だが、もちろん流通業のような第三次産業の従業員もこの法律で保護されている。
小売商店の営業時間は年々長くなっている。20年前にはデパートの閉店時間は午後6時だった。個人の店でも夜の8時ぐらいまでやっていれば「夜間営業」に属したし、週に一度は定休日というのが必ずあった。セブンイレブン(当時7時から11時間で営業)の進出は画期的だった。
ある日、デパートの営業時間が延び、大規模店舗法が廃止になって、定休日もほとんどなくなった。コンビには24時間営業で、スーパーも11時ぐらいまで開けてるようになり、正月休みも元旦だけ取れればいいほうだ。
政府は、基準を厳しくして労働時間をへらし、休日を動かして連休を多くした。人様が休むときに働くわれわれにとっては、よかったのかどうか微妙だ。余暇が増えて、商品の利用が多くなったのかもしれないが、連休になればレジャーに行ってしまい、小さなお店で買うような品物の売り上げは伸びない。そのわりには、商店の営業時間が非常に長くなって、休みは取りにくくなっている。
長く営業すればお客さんが分散してしまい、効率は悪くなる。しかし、他の店が営業しているのに自分のところだけ休むというわけには行かない。
小なりといえども、経営者である以上、四六時中仕事のことが頭から離れることはない。それでも、お店が開いているのといないのとでは、心持がだいぶ違う。よみた屋は、11時から24時まで無休の営業だから一日13時間、毎日、たとえ自宅で休んでいるときでも魂は店にある。
だからせめて、肉体には労働基準をかして、週44時間以上は働かないようにしている。週に一日半はやすむこと。さらに、「有給休暇」もとる。正確に数えていないが、正月、家族旅行、疲れたとき、風邪、サボリなど年に10日以上は取っている。
仕事は無限にあるのでやろうと思えば、ずっと働いていられる。だが、従業員にも自分にも僕は働きすぎを戒めている。お客さんのためには三分の一、自分のために三分の一、家族や周囲の人のためにも三分の一。そのぐらいでちょうどいいのではないだろうか。
というわけで、昨日は仕事をサボって寄席に行って来た。
新宿は末広亭である。ちょっと出遅れたので、開演時間には間に合わず、昼席の中入り少し前に入った。中トリは川柳川柳(かわやなぎせんりゅう)。もともとは円生の門下だったが、分裂騒動のときに落語協会に残った。40年前には高座で立ってラテンを歌い大人気だったらしい。正統派の円生門にはめずらしく色物的な咄家である。今でもいったん引っ込んで、ソンブレロをかぶってギターを担いで現れることがある。本日は、自著の宣伝と昭和歌謡史。座ったままでした。写真は記念に買ったその本「天下御免の極落語」。
ひいきの歌武蔵は番組表ではかなり浅いところにあったので見逃したかと思ったが、NHKでおなじみの志ん輔にかわってトリ。お相撲出身の巨漢力士なのだが、少し痩せたか。枕はいつもの自己紹介。しかし、代演とはいえトリなのだから名前の説明は要らないだろう。演目は鹿政談。いつものとおり、途中で気をそらす部分のある語り口だが、ちょっと元気がない。
末広亭では入れ替えがないので、そのまま夜席へ。色物では「ロケット団」が出色。テレビの芸人風だが、寄席の色物としてはすごい迫力だ。
「聞いて驚くな、俺のバックはXX一家だぞ」
「何だと、俺のバッグなんて、ルイ・ヴィトンだ」
膝がわりの一つ前に志ん輔がでた。出し物は宮戸川(お花半七)の前半。高座を見るのは初めてだが、さすがにうまい。
トリは鈴々舎馬桜。ネタだしで「髪結い新三」の続きもの2回目。うーむ。あさって続きを聞きに来ようかしら。