第1回 古本屋になるには一日講座

・本屋は始めるのが簡単、続けるのがむずかしい
誰にもできる。そのぶん、続けるのは各人の「芸」によるしかない。
たとえば、蕎麦屋さん
当たり前にやっていたのでは、だめ
他との違いが必要
市場に参加すれば、相場を知ることはできる。
けれども、相場どおりでは商売にならない。


・仕入れについて
・・買い受け
・・・お店に持ち込んでもらう
・・・お宅に取りに行く
古本屋は古物商ですから「古物営業法」という法律に則って営業しなければなりません。古物商が一般の人から古物を買い受けていいのは、自分の営業所か、相手の住所または居所だけだ。と、この法律に書いてあります。
本を売ってくれるお客さんが最も重要。
どんな無愛想な本屋も、よい本を持ってきてくれる人の前ではニコニコしている。
大量の本を買い受けるためには、店に持ち込んでもらうよりは、自らお宅に伺うことが必要。
本屋は本の知識だけではなく、体力も必要。
古本屋はよく紐で本を束ねて運びますが、小説の単行本や学術書ですと、だいたい20冊ぐらいで一束にします。1,000冊ですと、この束が50本ですね。運ぶのも大変です。マンションの4階でエレベーターがなかったりすると、かなりつらいので、多少お安く買わせていただきます。
行く前にお客さんに冊数を尋ねるのだが、
たいていは聞いた冊数の2倍以上ある。
・・・本屋の買値は安い
昔は「古書高価買い入れ」の看板を出している店がたくさんあった。今はあまりない。
だいたい売値の1~3割で買う店が多い。
5割程度で買うのでなければ、高価とは言えない。
昔と違って、本があまり気味なので価値が下がっているのが原因。
売り上げの、3割が原価、2割が人件費、2割5分が家賃、1割が諸経費で、1割5分が利益。
雑本をを扱う店は、だいたいそんな計算になっていると思います。
・・・本を売る人の目的
お金よりも、
本を処分して居住スペースを広げる。
本がもったいないので、再利用してほしい。捨てるのはいやだ。
・・・本の買取価格の決め方。よみた屋の場合。
まず、自分の店で売れるものと、市場に出すものを分ける。
店に出すものは売値を先に考えて、その割合で買います。
確実にすぐに売れるものは、売価の5割程度。
その他は2~3割になる。単価の低いものは、割合も安く買う。
ただし、重複しているものなどはこの限りではない。
ほとんど売れそうにないものは、全体でいくらというように値付けする。
市場に出すものは、市場の落札価格を想定しその半額で買い取る。
市場の値段は変動するので、半額程度にしておかないと損をすることがある。
・・・本をドライに買い取るだけではいけない
本を処分されるお客様には多かれ少なかれ、処分する本への思い入れを持っていらっしゃいます。我われが本を引き取るときには、この思い入れ、と言いますか、本への愛情も一緒に引き受けなければいけません。
特に亡くなった方の蔵書をご遺族が整理されようと言うときには、古書的な価値を説明して差し上げることも、いいと思います。古本屋を呼んで片づけようと言うほどの蔵書家の家族は、きっとその方の愛書趣味に迷惑を被っているはずですから、遺品を古本屋が喜んで引き取って行けば、自分たちの我慢も全く無意味ではなかったと、慰めになります。
・・・広い分野を買い取る
蔵書整理が目的のお客様が多い。
なるべく広い分野の本に対応できるように、勉強しておいてほしい。
さまざまなジャンルの本を持っているという人は、沢山いるけれど、本当にさまざまなジャンルの本を持っている人は滅多にいない。しかし、お客様はさまざまなので、本屋に集まる本は実にさまざまである。
商売にならないと思える品も、できるだけ引き取るのが望ましい。
なぜなら、
1,大量に売れた本のすべてを次の世代に残すことはできない。しかし、何を残して何を捨てるかを、お客さんに判断してもらうことはできない。製品を最終的に始末するのは事業者の義務。出版流通業界の一端を担う我々が負うべき事。
2,だめだと思った本の中に、よいものがあるかもしれない。
・・買い入れ以外の仕入れ
・・・セドリ 即売会回り 古書目録など
一割引が仁義、お互いに割引しあう仲間
・・・市場 買い
プロ同士の駆け引き。
市場では、ひとくくりにされた本が多い。数十冊から時には数百冊。
高く入札すれば、とにかく仕入れることができる。
大量の本を一気に仕入れることができる。
特定分野の本を集中的に仕入れることができる。
古書店の品揃えの専門性は市場によって確保されている。
市場に参加すれば、相場を知ることはできる。
けれども、相場どおりで商売していたのでは、既存の業者と勝負することはできない。
自分で価値を見いだすこと→価値を作ってゆくこと→錬金術
みんな自分だけが知っている「よく売れるもの」を持っている。
すぐバレて人に追いつかれる
・・・市場 売り
市場ではまた、仕入れたものを売ることもできる。
自分の店で売れないものを、お客さんから買ったときには、市場に出す。
買い入れにおける総合性が、市場に参加することで担保される。
市場では、ほとんどが知った同士。
誰が買うか想定して、出品します。
とにかく、すぐに現金化することができる。
大量の本を一気に処分できる。
専門性の高い本でも、ほとんどは扱う店がある。
・販売
しかし、市場で売るより、なるべく自分の店に置きたい。
商売は必要なものを提供することでは成り立たない。欲しいと思ってもらう事が必要だ。ニーズに応えるのではなく、ニーズを創造するのである。
・・店売り
・・・セレクトショップの流行
店舗での販売の方法は、陳列と接客。
書店は陳列販売を数十年前からやってきた。
その方法はスーパーに取り入れられ、コンビニと新古書店という販売形態を生み出した。
新古書店は、売り場面積を大きくしたが、様々な種類の本を扱うことができず、「一般書の専門店」になった。
逆に、店主の個性を前面に出したセレクトショップ型の古書店というニッチが生まれた。
・・・個性的な店の作り方。
様々な種類の本を、いかに統一的に展示するか。
基本的には最低限の教養が必要。インテリと言われる人が、専門からかけ離れた事柄でも、常識として知っている程度の事柄。
日本文学全集、世界文学全集、日本美術全集、世界美術全集、世界の名著、日本の名著、日本古典文学大系。など、古書店で安価に手にはいる。
内容は読まなくてもいいから、題名だけでも覚える。
最新の知識と流行を知るために雑誌をながめる。文学界・群像、美術手帳・芸術新潮、青土社の現代思想、岩波の思想。
参考文献。高校の国語資料集、歴史の参考書、年表など。
そして、とりあえずすべて忘れる。
書店の配列は、分類ではありません。
十進分類法は役に立たない。
世界には秩序があって、世界に関する知識は、すべてこの秩序に沿って配列できる。世界に関する知識をすべて集めれば、完全な体系ができる。という思想。
私の考えでは、これは本という存在に反している。
本は、様々な著者が自分の考えに従って、次々に新しいものを書いているので、
常に分類不能の新たな分野が生まれ、また
複数の分類に入るものが多い。
書店の配列は、商品の陳列だ。
売れるように並べると言うことだ。
分類はカテゴリーという箱の中に、要素を納めていくということだが、
商品陳列は、テーマを決めて関連性に従ってどんどんと無限につなげて行く。
商品には関連性があり、それに従って陳列すれば、お客さんは本を見つけることができる。
関連性は、内容に限らない。
例えば、表紙のデザイナーでもよい。
発行の年代でもよい。本文に使われている紙の素材でもいい。
著者が個人的に影響を与えあったというような、本の外部にあるものでもいい。
さらに、本屋自身が無関係な二人に、関連を見いだしたいということでもいい。
ただし、関連性がある程度一貫していないと棚づくりにはならない。
・・・2次元配列
多くの人は、必ずしもよいセンスを持っていないし、
得意分野以外でセンスを発揮するのはむずかしい。
よく知らないことでは、分類と同じようなことになりかねない。
そこで有効な方法は、2次元配列だ。
例えば「宗教と犯罪」、「歴史と女性」、「ドイツと家族」というように2つの項目の交差する点に位置する本を見つけ出してそれを中心に面で棚を構成する。
蔵書量が必ずしも多くなく、自由に仕入れができるわけでもない古書店のバラバラになりがちな本で、棚づくりするのがぐっとやりやすくなる。
一般の人が本を買うときも、2次元の軸で集めていることが多いと思う。
・・・個性化のしすぎに注意
ある程度、流行や時代の要請を取り入れる。
古本屋の場合は、仕入れの自由がそれほどきかないので、流行になり過ぎはそれほど注意しなくてもいいと思う。
むしろ、個性化のし過ぎに注意。
個性的な店と、独りよがりの店。
・・店づくり
質の話をしたが、量も重要。というか、本質的。
古本屋はどのくらいの本を蔵書しているか。
180cmx90cmの本棚にだいたい500冊ぐらいの本が入る。
ひと坪当たり1台ないし2台おける。
したがって、10坪の店ならば、5,000冊から10,000冊の本がある。
普通は、そのほかに倉庫がある。
倉庫には坪当たり1,000冊以上の本が置ける。お客様のための通路が必要ないので。
・・日々の作業
うちの店だと、客単価は、かつては700円ぐらいだったが、最近は1,000円ぐらい。
商品単価は、平均400円ほど。ひとりが2冊と少し買って行く計算です。
実際には500円ぐらいの本はあまり売れない。
売れるのは100円と1,000円以上。
近所に某新古書店ができて、やすい本が売れにくくなった。
毎日200冊ぐらいの本を店頭で売っています。
そのほかに、通販があり、市場にも、月に1,000冊ぐらいは出している。
売れ残って処分する本も同じぐらいある。
扱っている本は膨大。
特に高価なものに集中するのでなければ、大量の本を日々扱うことになる。
古書店の実際は想像とはかなり違うかもしれない。
古書店は新刊書店と同じで、肉体労働である。本は重い。商店はだいたい肉体労働で、荷運びが主な作業である。
店舗販売をするなら、立っている時間がほとんどで、座って本を読むことは全然できない。
・本を売るのが古本屋の仕事
一冊一冊の本より、大量の本が好きな人は古本屋に向いている。
多くの本を買えるので、本を読むより買うのが好きな人も、古本屋に向いている。
ただし、本を集めるのが好きな人は古本屋に向かない。
本屋は本を集めるのが仕事じゃない、本を売るのが仕事だ。売るために(目的)集める(手段)のだ。