札幌ラーメン ピリカ

とんねるずの「きたなしゅらん」を見ていたら、吉祥寺井の頭通りの札幌ラーメンの店「ピリカ」が出ていた。実はこの店家のすぐ近所で、一度食べてみたいと十数年間思い続けていたが、勇気がなくてまだ一度も入ったことがない。そんな感じの店構えなのだ。
近所すぎる店はかえって入りにくいということもある。知らなければなんということもないが、こちらの素性が知れて顔見知りになってしまうと、常連にでもならない限り、行っても行かなくても言い訳をしなければならないような気がして、何となくわずらわしいではないか。
しかし、私はラーメン好きである。近年激戦区となった吉祥寺南地区のラーメン店は一つずつ制覇して、他には入ったことのない店はない。老舗の「ピリカ」が最後の秘境となっていたのだ。まあ、いまどき「札幌ラーメン」というのがすでに珍しいかもしれない。北海道出身の当店従業員AY子には「札幌ラーメンって、どんなものですか」と訊かれたことがある。東京には東京ラーメンはないし、フランスにはフランス料理と銘打つ店はない。北海道には札幌ラーメンという看板の店はないのだろう。味噌味の湯麺でトウモロコシが入っているのだよ、AY子。トッピングの定番はバターとにんにくだ。昔はコタンとかモシリとかいうような店がたくさんあって、貧乏だった私はスープの底に沈んだトウモロコシを一粒ずつ箸で拾って食べたものだ。
そんなことを思い出しながら、テレビを見ていたら、急に食べたくなった。紹介されていたのはラーメンのスープに麺の代わりに水餃子を入れた「湯餃子」だが、私はやはり正統の味噌ラーメンがいい。あした食べに行こうと思ったが、テレビに出たのだ、あしたは大行列になってしまうだろう。しかも紹介していたのはEXILEのTAKAHIROである。どうしようかと考えているところに、息子2号が塾から帰ってきた。
近所のピリカがTVに出ていたよ、と水を向けると、じゃあ今から行こうということになった。けっこう思い通りになる息子じゃ。太るからいやだというと思われたKも行ってみたい、ということになり家族三人で夜の道に繰り出すことになった。
自転車を駆ること数分、しかし、われわれを待ち受けていたのは大行列ではなく、意味の分からないメモを貼ったシャッターであった。そういえば、毎週木曜日に顧客の家をまるときにAY子と一緒にこの店の前を通りながら、入らなかったのは定休日だからだった。
「TVに出てる日ぐらい、営業しろよ」と思ったが、本人たちも自分が出ているテレビは見たいだろう。ご夫婦でやっている店だ。きっと今頃は二人でビールを飲みながら自分たちの出ているテレビを見て、俺はもっとかっこいいはずだとか、若く見えるとか、そんなことをしゃべっているに違いない。
他の店に寄ることもなく、家に戻ったわれわれは、ラーメンへの想いが捨てきれないので、カップラーメンを食おうということになった。私が、自分の楽しみのために密かに買っておいた一個300円の高級カップラーメンである。だが私は実は腹が減っているわけではない、10時になって食べたらあした胸焼けしちゃうよ、ということで、こっそり部屋を脱出し、ベッドの中で清水真木の『これが「教養」だ』を読むのであった。
今日こそは、どんなに並んでもピリカで味噌ラーメンを食べるぞ。
pirika01.jpg