新書を読むシリーズ『理性の限界 不可能性・不確実性・不完全性』 高橋昌一郎 講談社現代新書

新書を読むシリーズ『理性の限界 不可能性・不確実性・不完全性』 高橋昌一郎 講談社現代新書
アロウの「不可能性定理」、ハイゼンベルクの「不確実性原理」、ゲーデルの「不完全性定理」について、ディスカッション形式で解説した本。


アロウの不可能性定理とは「完全に民主的な社会的決定方式は存在しない」という定理。
不確実性原理というのは、電子の運動量と位置の両方を正確に観測することはできない、という原理で、電子のようなミクロの存在はある程度の範囲に「共存」して存在していて、観測されることによって「収縮」し位置が確定する、という相補的解釈(コペンハーゲン解釈)と、位置は本来どこかにあるのだが、観測行為そのものによって影響を受けてしまうので、厳密に観測をすることはできないという解釈(実在的解釈)とがある。
余談だが、野矢茂樹が言っていた「一度も勇気を試されることなく生涯を終えた人には、勇気がなかったといえるか」という問題と似ている。
不完全性原理は自然数論の内部に、自然数論と矛盾せずに、しかも証明も反証もできない命題をこうせいできる(したがって、すべての真理を記述することはできない、あるいはシステムはシステム自身の真理性を証明できない)という、ゲーデルの証明のことだ。
それぞれ、数理経済学者とか論理学者とかの専門家が登場して解説してゆくのだが、読者の立場の代弁者としては「会社員」という人が、素人だが合理的な精神で聞き手に回る。そして、この本のユニークなところは「カント主義者」とか「ロマン主義者」といったような極論を述べる人がいて、いわば狂言回しの役をしているところだろう。いささか本題とは関係なさ過ぎる登場人物もあるが。
「一流の研究者に何かを教えていただくには、『雑談』が最もわかりやすいし楽しい」と後書きにあるとおり、論文というよりは興味深いトピックを会話形式で次々に紹介しているので、非常に楽しい。また、それぞれの原理を解説するだけではなく、原理が学会に提出されて後どのように研究が発展していったかも示唆してあり、今後研究に向かう学生にとっては特に興味深いのではないか。
巻末の参考文献は非常に充実している。