新書を読むシリーズ『若者はなぜ正社員になれないのか』 川崎昌平
非正規労働とワーキングプアの問題を社会学的に分析した本かと思って読み始めたら、大学院を卒業して2年間フリーターをしていた著者が就職活動をするという、小説仕立ての体験記だった。
2年間の無職生活に疲れた著者は、就職活動をしてみようと思い立って、まずは大企業の面接を受ける。最初は書類選考で落とされることが度重なるが、失敗から学んで、次第に筆記試験、1次面接、2時面接と進んでいけるようになる。
しかし、大企業の壁は厚く、最終的な採用には至らない。そのうち、大企業では仕事が細分化しすぎているため「個人レベルでの確かな達成感」が得られないということに気づいて、中小企業へと就職活動のアプローチ先を変える。
大企業へのアクセスがネットから入るのに対して、中小企業の採用情報はハローワーク辛党のが庁舎の流儀のようだ。
しかし、中企業では「大学を出て、2年間も」「フラフラしていた」僕は「懸命に生きているようには見えない人間」なので、面接で必ず不採用になってしまう。
ところが、小企業(通常の言葉では「零細企業だ」)では著者は簡単に採用を打診される。しかし、著者は小企業への就職を自分から辞退してしまうのだ。「こちらは企業に就職したいのであって、己の腕一本で稼ごうと考えているわけではない」というのがその理由だ。
物語として構成されているので、結末は書かない。
結局、著者は企業に何を求めていたのか。おそらく著者が望んでいたのは自分自身の変化なのだろう。少女が白馬の王子様を待つように、自分を変えてくれる「何か」を企業に仮託して「定職」を求めたのだ。そして、「フラフラしていた」僕が、「ウチで何をやりたいの?」と問われ続けることで、何ほどかの変化の扉を開いたか、あるいは「変わらなくてもいい」という窓を開いたのではないだろうか。
私は本書末尾にあるいささか諧謔的な「役に立たない面接技法」を読んで、就職活動のノウハウより、むしろ著者の「2年間」のほうに思いをはせた。『若者はなぜ正社員になれないのか』ではなく『僕はなぜ正社員にならないのか』と呼ぶべき本。