店売り2分の1本、または、もがきあがいて15年
開業当初は「店売り一本」でいこうと思った。販売は店頭のみ、100円均一などの安売りはしない、と。
均一をやらないという思いは、一月もしないうちに破れた。持ち込まれる品物が予想以上に多くて、しかもまともな値段では売れそうにないものの割合が高かったのだ。
店に置けないものは断ればよかった。だが、僕の修行した高原書店では、買取の断りはまずしなかった。特に、一部だけ買い取って、値段にならないものをお持ち帰りいただくことは、絶対になかった。総合古書店が「評価なし」とした本の行く末は厳しいものだとわかっていたからだ。
なら、まとめて市場に出せばいいのだが、当時まともな車を持っていなくて、市場での仕入れは運送業者を頼んでいた。売れないものを出品しても、いくらにもならない。コストをかけて出品するのは無理だ。
計画性がないというのか、信念がないというのか、早々に「均一をしない」という理念は反故になった。その均一が、すぐに「よみた屋」の呼び物となった。某古書店評論家に「イチロー以上の打率」と言われるほど、ウブねた中心の均一台だったわけだ。
売り場を店以外にも持つという方は、もう少し時間がかかったが、高円寺の古書会館での即売会(その後中止)、支店をだし(阿佐ヶ谷店…その後閉店)、古本旅の一座への参加(相模原での長期催事…終了後他の業者によって固定店になった)、本店の吉祥寺への移転などを経て、「店売り一本」なんていう掛け声は、ほとんど記憶にも残っていない。
いまでも、当時西荻でライバル関係にあった(というか、当店が一方的にやられただけだが)花鳥風月さんとか、音羽館さんとか、荻窪のささまさんなどは、本当に店売り一本である。そういう経営姿勢は尊敬に値する。それに、お店に行くと実に楽しい。うちでも、来てくれるお客さんが一番大切なお客様だが、店頭販売だけのお店では、「唯一の」お客様なのだ。一番よりも唯一の威力ははるかに大きい。
珍しい本などは、どうしてもネット検索の方が早い。即日売切れになることもしばしばだ。だから、ネットに力を入れている店で、数千円以上の品物の掘り出し物は少ない。それに、こちらから送るより、お客様に足を運んでいただけば店側のコストはかからないから、店頭値段のほうが付け値の基準が低いのだ。この、店頭価格とネット価格の兼ね合いをどうするか、ということはここ数年のよみた屋での最大の悩みである。
現在では「日本の古本屋」や「アマゾン」を通じてのネット販売が、全売り上げ金額のの3割を占めるまでになった。売り上げ冊数では、100円均一・50円均一などが、全体の三分の一ほどを占める。ならば、高額書はネット、お店では均一という棲み分けかと言うと、そうでもない。ネットで知ってお店まで実物を見に来てくれる人は多いし、なんといっても、まだ売り上げの半分は店頭販売である。
よみた屋では店頭品をネットに載せているので、混乱も多い。値段のつけ方だけではない。本の並べ方も、売れ行きを伸ばすための陳列と、従業員が管理しやすい配列とは矛盾する。在庫中に痛んでしまう危険性も、倉庫よりは多い。
特段の才能があるわけでもない僕が、業界で生き残るために、柔軟に対応してきたというか、もがきあがいて15年というか、やれることを何でもやって、とにかく今日まで仕事を続けてきが、悩みはまだまだ尽きないのである。