独立して自分の商売をするためには独自の世界観が必要だ
古書店に勤めるとき最初に独立するつもりかどうか聞かれたと、業界の先輩が話していた。それによって教え方が違うと言われたそうだ。その老舗には、半年から数年ほど働いて独立した人が何人もいるし、数十年も働き続ける人もいる。その先輩は後者だ。
どう違うのが興味があったが、そこは話してもらえなかった。けれど、最近すこしわかるような気がする。
うちの従業員にも仕事を教える。だがそれは、お店の決まり事や、接客のコツ、業界の仕組みといったことで、本に値段付けする方法――価値観は教えようがない。参考にすべき相場をどうやって知るかは経験が学べるけれども、それら参考情報を統合すべき本人自身の世界観は、何処かから探してくるものではなく自分で作り上げるべきことだ。だから、基本的に値付けの方法などは教えない。
しかし、実際は従業員にもお店の本の値付けをさせている。では、何を教えているかというと、それは「私の値付け」だ。社長ならこういう値段を付けるだろうという価格を代行して付ける。そのためには、ふだんからいろいろ話していればいい。私が間違っていたとしても、どう間違っているか彼らが知っていれば、少なくともお店の値段体系は保たれる。
よみた屋は家族でやっている商店だから、一生勤めて出世してくことはできない。原則的に、学生か独立を目指す人に働いてもらっている。ただし私から見て、すぐに独立しそうな従業員と、今のところ自営業をする心の準備ができていない従業員の区別はある。「私の値付け」を代行してもらうのは後者の方だ。あまり意識していなかったが、どうも自然にそういうように差を付けているらしい。
独立して自分の商売をするためには独自の世界観が必要だ。そういう人に、あまり私の価値観を押し付けると、彼の世界が変調をきたしてしまうかもしれない。「教え方が違う」というのは、そんな事かなと思ったりする。
きのうは台風で3件あった出張買取を全てキャンセルしたので、今まで溜まっていた少々めんどうな本の調べをして過ごした。しかし腰痛はなかなか治まらない。