今日は負けた

今日は負けた。
池袋に本の買取査定をしにいった。映画の本が本棚4個分と聞いていたのだが、行ってみると普通の本棚換算で20面あった。4個の本棚一つ一つの幅が4~5メートルあったのだ。
しかも内容は、映画より戦前戦後の推理小説などが主である。戦前版の江戸川乱歩全集など高価なものがごろごろしている。確かに、量でいえば映画関連の方が多いが、金額換算では10対1ぐらいだ。
ただし、簡単に買わせていただけるわけではない。ほかの業者との合い見積もりである。金額で勝ったらすぐに買って帰れるが、こちらが安ければ手ぶらである。敵はたぶん複数ではないだろうけれど、誰だかはわからない。
池袋近辺には映画関連を強力に買いそうな本屋があるので、密かに恐れていたのだが、大衆文学はそれほど扱っていない。この内容であれば負けることはなさそうだ。
見落としがあるといけないので30分ほどかけて慎重に査定した結果、僕の買値は15万円と出た。
しかし、結果は負けだった。相手の業者は近所の老舗で、20万円と踏んだそうだ。油断して見落としがあったわけではない。合い見積もりと知っていて、厳密に査定したのだ。めいっぱいの金額のつもりだったのに、大差で負けた。完敗である。
あの老舗は大衆文学に力を入れているのだった。しかし、正直言ってあまり気にしていなかった。本をお客さんから高く買うのはたいてい若い本屋だと思っていた。
われわれは、お客さんからどら焼きをいただいて帰った。車の中は反省会である。
もし、あのお客さんが合い見積もりでなかったら、15万円であの本を買うことになっていただろう。そうしたら、5万円損をしたわけだ。たくさんある本屋の中から、せっかく「よみた屋」を指名してくださったお客さんに、損をさせてしまうところだった。
「よみた屋」ではその本を一番高く買う本屋の8割ぐらいで買い取るというのが方針だ。だから個別の本の査定では負けることがある。しかし、いろいろな本があれば、全体として「よみた屋」に売るのが有利、ということになるはずだ。ある本を100で買う本屋が別の本を20で買うとすればトータル120、対して「よみた屋」はどちらも80で買うのでトータル160である。
しかし、今回のように内容がまとまっている場合は、そこに本当に強い人が出てきたときにはかなわないわけだ。滅多にないこと(ちゃんと呼ぶべき本屋が呼べていること。たいていは的外れな本屋を呼んでしまう)だが、どんな場合でもお客さんに損をさせるようなことをしてはいけない。
本を高く買える本屋が、もっとも偉い本屋だ。本の価値を高めているのだから。「よみた屋」も、もっともっと高く買えるように努力しなければならない。どんな本でも、その分野に最高に強い本屋と同等以上で買う。そういうすごい本屋になれるだろうか。挑戦である。