2階から女房殿の、「いつ寝るの」と呼ぶ声が聞こえる

吉祥寺には予約が取れないので有名な「肉山」という店がある。朝5時に並ばなければ買えない「小ざさの羊羹」と並んで、地元のプラチナチケットである。ちなみに、吉祥寺に住んで20年以上になるが、私は小ざさの羊羹を食べたことがない。誰かがくれてもよさそうなものだが、友だちのいない私にはおすそ分けすら回ってこない。友達がいないのは子どものころからで、本がその代わりを務めた。本ばかり読んでいるから友達がいないのか、友達がいないから仕方なく本を読んでいたのか定かではないが、たぶん後者だ。読書でわずかばかり格好を付けていたのだ。これで、少し頭がよければ学者にでもなったのだろうが、違ったので本屋をやっている。人間、万事塞翁が馬だ。

ところで、その予約の取れない肉山に息子一号が誘われた。誰かが、何ヶ月か前に予約して、その貴重な一席を彼に分け与えてくれたのだ。あいつは私と違って人に愛されるようだ。

そんなわけで、本来の休みを返上して私と店長で店番をすることになった。今日も宅配集荷が8箱届くが、既に溜まっていた分のうち4箱を査定したのみ。普段は店長がひとりでやっている棚への本差し(これを当店では本を播くと言ってる)を手伝う。店長は、きのうに続いて大市の出品づくり。

旧知の不動産業者が物件情報を持ってきた。そろそろ、借り店ではなく自社店舗にしろと言うことか。古巣である西荻の物件なので心を動かされる。しかし、20年間「吉祥寺のよみた屋です」と言ってきたしな。

夕飯は途中で店を抜け出して、「里の宿」で魚の定食。店長は鰊の煮付け、私は銀鱈の味噌焼き。鰊は店長の口に合わなかったようだが、銀鱈は美味かった。

11時帰宅。女房殿が作ったナッツの蜂蜜漬けとブルーチーズを皿に盛る。流れた蜂蜜が少しチーズに付いてよい味になる。

風呂に入って、ちょっと涼んだらもう1時である。2階から女房殿の、「いつ寝るの」と呼ぶ声が聞こえる。子守歌はオケゲム。