2月から、5月の連休ぐらいまでが古本屋の仕事はピークである

毎年2月になると出張買い取りが増える。引越シーズンだし、大学を退職する先生達の研究室の明け渡しがあるからだ。

12月にも買い取りは多くて、出張もあるけれど、店への持ち込みをしてくれる人が並ぶほどになる。たぶん、大掃除のついでに古本の処分を決意して、日程を合わせて出張を待つより手っ取り早く自前の車で持って行ってしまおうということだろう。

だから、たしかにこれはいらないだろうという本が山のように溜まる。古本屋のメキキというのは、いかにも売れそうな本ではなくゴミに紛れそうなお宝を見付け出すことだ。もちろん、大掃除の片付けもののなかにも貴重な本は入っている。だが、稀少な本は珍しいから高価なのであって、スーパー収集家の書庫でないかぎり、そんなのがゴロゴロしているわけはない。千冊のなかに3冊あればいい方だ。

春の出張買い取りは、ちょっと違う。とくに家のリフォームなどで、三代まえのひいお祖父さんからの蔵書を、ずっと触っていなかった本棚から出してもらったりすれば、稀覯書が何冊も現れたりする。もともとは、それほど珍奇な書物ではなくても、時間がその本を大古書にするのだ。

古びた本はダメだろうと捨てたりしないでほしいのだが、そういう人が多いのだ。立派な辞書や全集より、雑誌やパンフレットの方が古書として価値がある可能性が高いのだ。古本屋を呼ぶ前に本の整理をしてはいけない。取っておきたい思い出の本だけ抜き出して、年季の入ったものはみんな残しておいてほしい。

専門書を捨ててしまう人もいる。新古書店が専門書を嫌うので、学術書や啓蒙書は古本屋が買わないと勘違いしてしまうのである。古本屋は、少数の人しか読まないような本を次の世代に伝えていくのが仕事である。古い本や、専門的な本は、むしろ積極的に買い取りする。ましてや、ISBN(1984年ごろから本に付いている国際識別コード)がないと無価値だとということは、決してない。

2月から、5月の連休ぐらいまでが古本屋の仕事はピークである。たぶん、ほとんど休みは取れない。今週は出張買い取りが1件もなかった。年に2,3度はこういうことがある。嵐の前の静けさである。