鎖国解除
最近、人とつきあうのがおっくうで仕方ない。何を言っても、相手か自分かが傷ついたような気がしてしまう。ひとりでいるのは淋しいのだが、誰かといっしょにいるのは怖い。
お客さんと店員の関係のようにルールがあるところでは、それらしく振る舞えるのだが、素の自分になると、何をしていいかわからなくなってしまう。
古本屋の業界の人たちとのつき合いも、最近はほとんどしていなかった。市場では売るのがほとんどで、あまり買わない。買いが中心の人は競争があるので、コミュニケーションが欠かせないが、売る方は寡黙に出品するだけだ。
A副店長が市場の係をしているので、必要最低限の情報は仕入れてきてくれる。いわば、彼女を出島にして鎖国していたようなものだ。
しかし、さすがにこのままでは本当にヒキコモリになってしまいそうだ、という気がしてきた。
ぼくは電話が苦手なので、なるべく留守番電話にしておいて、あとで聞くようにしている。重要な用件があるときは、相手もメッセージを残してくれるから、あとで心を落ち着けてからかけ直す。
しかし、コミュニケーション自体が目的の(グルーミングトークというやつだ)電話なら、そのまま切られてしまうだろう。これでいはいけないので、積極的に自分から電話をかけてみることにした。やってみると、たいていは直接相手につながらないし、つながっても忙しそうだったりする。自分は電話に出ないくせに、伝言になってしまうと、鉄のカーテンが張り巡らされたようで、再びかけ直す気力が失せる。
おごるからと言って誘ってみても、いったん断られたら、また誘えるだろうか。誘えても、うまく話ができるだろうか。
先週の月曜日は、久しぶりに一日じゅう市場にいた。全然知らない人の人混みは平気だが、知り合いが大勢いるところに行くと思うと、電車の中で気分が悪くなってくる。いつもは、なるべく人のいない時間に用事を済ませてすぐに帰ってしまうのだが、人の多い時間にずっといたので、いろいろな人に声をかけられた。途中ひとりで会館を出て、オーディオショップで機械を眺めていると、だいぶ落ち着いてきた。午後には気分もだいぶ普通になり、数点の品物を落札して帰宅。
開国もあまり急激にやろうとすると、反動でかえって引きこもりたくなりそうだから、徐々に徐々に、人付き合いを復活させていこうと思う。